小堀球美子の相続コラム

相続コラム~となりの遺産分割、手続き編「遺産分割と使い込み」

1 遺産分割をしようと思ったら、兄の様子が変。預金について何か煮え切らない態度をしている。預金通帳を見せない、預金はもうないのだから分けるのは不動産だけ、俺は遺産は要らないよと言う。。。
2 預金について何か隠していると思い、預金の履歴を取り寄せてみると、父の死亡前後に毎日のように限度額一杯の50万円ずつが引き出されている!!!
3 Aさんは、不動産はいくつかあったけれど、すべて兄と協同して売って分けることを考えていたので、預金の使い込みは封印しました。不動産が売れたので、使い込みについて、兄に問いただしました。兄は確かに自分が下ろしたが、父に渡したのだと言います。兄と交わした遺産分割協議書(不動産を1/2ずつで取得して、協同して売って分けるという内容)には、「Aと兄の間には、何らの債権債務のないことを相互に確認する。」という文言が入っていました。
4 兄が使い込み金を返すことを拒否したので、Aさんは、地裁に返還請求の訴えを提起しました。
兄の主張
①「何らの債権債務のないことを相互に確認する。」(清算条項)という文言で、解決済み
②引き出したお金はみな、父に渡したので、その後は分からない。
5 ①については、極めて悩ましい問題です。Aさんは、遺産分割の前に使い込みについて気がついていたというのですから、それを踏まえて、清算条項を入れたのは手痛い失敗です。しかも、Aさんと兄が入れた文言は包括的清算条項で、遺産分割と無関係の債権債務をも清算してしまうことがあります。ただ、清算条項で清算されているかは、裁判所ではとても実質的に判断されますので、以下のような場合は、個別的な判断が可能です。
ア)Aさんが作った引き出しの一覧表を兄に渡してはいたが、Aさんは、兄と不動産が分けられたことで、返還請求は行うつもりはなかった。Aさんは、兄が引き出したものの、父の複数の不動産の税金等に充てられたのだと善解し、返還請求はあえてしなかった。数年経って、兄が実は父の税金を滞納していて、それをこのたびまとめて払ったので、Aさんに立替金請求をしてきた。
Aさんは、一覧表は渡したものの、その使途を兄が説明したり、2人の間でその問題を揉んだことはなかった、引き出したお金は当然父の必要経費、税金等に充てられたとAさんは期待した、しかし、兄はそれに充てず、散財しておいて、今になって請求するのは道理にもとる、Aさんは、積極的に返還請求をしているのではなく、兄からの請求に相殺の抗弁を出しているだけで、いわば受け身だ。
裁判官がAさんの言い分にももっともな部分があるとして、兄の請求を大幅に減額する和解案を提示。
イ)Aさんは、兄に釘をさしておく意味で、兄に、メールで、「不動産は売って分けますが、預金については、それが終わったら話し合いをお願いします」と書いて送っていた。Aさんはけっして兄に対する返還請求権を放棄したのではないとして、反論、Aさんに勝訴的な和解が成立した。
6 ②は使い込み訴訟の被告がよく使う言い訳です。これに対しては、Aさんが不法行為とか不当利得とかで兄に返還請求するのが普通なので、Aさんが「兄が父に渡したことはない」ということを証明するべきなのです。そこで、当時父が大金をもらっても、他の口座に入金した記録がない、当時の父の能力ではそのような大金を使ってしまったとは不合理である、などという状況証拠の積み重ねで、立証を行いました。
この問題、ほかに解決方法もあるのですが、それは事務所にお越しになった際に、直接お話ししましょう。
7 使い込みによる返還請求は、遺産分割とは別個の問題です。預金が残っているとそれは遺産分割の対象ですが、返還請求権は、相続開始と共にパッとAさんと兄に、分かれて相続される可分債権なので、遺産分割の必要はなく、家裁でなく地裁で解決するべき事柄です。その位置づけを注意してとらえる必要があります。

2020-06-09|タグ:

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