小堀球美子の相続コラム

遺産でなくなるもの

本来相続財産で遺産分割の対象となると一見見られるものの、遺産分割協議が必要なく、「遺産性」が失われる財産があります。そうしたくくりでその財産をまとめてみました。
一つは、可分債権(たとえば預金債権)。最高裁は「相続人数人ある場合において、相続財産中に金銭その他の可分債権があるときは、その債権は法律上当然に分割され、各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解するを相当とする」(最判昭和30年5月31日)と述べていて、たとえば預金債権について、これのみを取り上げて家裁に遺産分割審判を申立てたときには却下されてしまいます。個々の相続人が、金融機関に個別に請求していけばよく、相続人間の係争にはならないということです(ただし、預金のみを遺産として遺産分割調停を申立てると、相続人全員が審判事項にすることを合意していれば、調停自体は受け付けてくれます。)。
一つは、相続開始後遺産である不動産の生み出した法定果実(賃料収入)。最高裁は「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。」(最判平成17年9月8日)と述べています。実際遺産分割調停などでも、不動産の分け方が決まっても、相続開始後の果実の帰属は別問題とする扱いで、そもそもそれは、この遺産分割調停で解決すべき事項ではないが、オプションとして話し合いの機会を設けるなどの扱いをしています。このとき、相続人は法定相続分で果実を取得し、相続人の一人がこれを独占管理しているときなどには、その相続人に対して不当利得返還請求をしていくことになります。
もう一つ気づいたのが、遺留分減殺請求権行使の結果、共有状態になった不動産等。最高裁は「遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合、遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受遺者が取得した権利は遺留分を侵害する限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するところ、遺言者の財産全部についての包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないと解するのが相当である。」(最判平成8年1月26日)と述べています。つまり、子2人が相続人である例で、その一人(A)にある不動産を相続させる遺言があったとき、ほかの相続人(B)が、遺留分減殺請求権を行使すると、不動産はA3/4、B1/4の共有になる。その共有状態の解消は、遺産分割協議(調停審判)によるのではなく、共有物分割手続きによることになります。
可分債権である預金、相続開始後の賃料収入、遺留分減殺請求権行使の結果の共有状態の不動産、これらは、遺産でなく、相続人同士の協議ないし家裁の審判で決まるのではなく、権利の義務者に対する訴訟により解決されるものということができます。

2010-07-08|タグ:

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