小堀球美子の相続コラム

紛争の予防?ケーススタディ??兄弟のうち私だけ大学へ行っている

我々弁護士は、実際起きた紛争の解決に携わることを本職とします。ですから、弁護士の仕事を「後始末」「どぶさらい」と表現する人もいます。でも、紛争の根がどこにあったかを知る立場として、紛争の予防も呼びかかられればと思いました。このテーマでいくつかケーススタディをご紹介します。
両親も他の兄弟も高校までなのに、私だけ大学に行かせてもらった。このようなケースでは、大学の学費は、特別の生前贈与として、特別受益の持ち戻しの対象になります。
父A、母B、兄弟X、私Yとします。
学費を出してくれたAが死亡し、相続が開始したとき、相続財産に学費(それも相続開始時の評価額に引き直す)を加えたものを相続財産とみなし、それを法定相続分で割って、Yの取り分は、そこから学費相当額を差し引いたものとする、という計算を行います。
たとえば、相続財産が1500万円で、学費を相続開始時に引き直すと500万円のとき、みなし相続財産は2000万円ということになります。すると、B1000万円、XY500万円となり、Yは500万円?500万円で取り分ゼロという結論になります。
しかし、Yは納得がいきません。確かに自分だけ大学に行ったが、それは、成績のよかったYに将来を期待してAが出してくれたもの。現にYは能力を発揮し、それなりにAにも援助が出来たと思っています。
実は、持ち戻しの免除という規定があって、被相続人が持ち戻しをしないでよいという意思を明示ないし黙示にしたなら、持ち戻し計算は不要と言うことになります。
〈解決策?〉
このように、持ち戻し計算を回避したいなら、一番いいのは、Aに形式を問わず、一筆書いてもらって、持ち戻しの免除の意思を表明してもらうこと。
〈解決策?〉
次に、Aに遺言を書いてもらって、遺言に則って遺産分けがされること。遺言があると法定相続は排除され、遺言相続になるので、これだけでYにつき持ち戻し計算がされることがなくなります。
問題は、その内容。Aがどの遺産を誰に、と定めていれば基本的にこれに従います。たとえば、Aは全遺産をYに遺すという遺言を遺した場合。Yはまるまる遺産を相続できて、持ち戻し計算はなされません。
【以下()内は余力のある人のみ読んでください】
(ここで、BXについては、遺留分侵害が問題になります。
少々複雑になりますが、こうです。遺留分の計算。(1500万円+500万円)×1/2=1000万円が遺留分。1000万円×1/2=500万円がBの遺留分侵害。1000万円×1/4=250万円がXの遺留分侵害。
Yとしては、このときの遺留分の計算で、遺言に持ち戻し免除の意思があるとして遺留分率をかける遺留分の計算の基礎となる財産は1500万円であると主張したいところです。
遺留分の計算で持ち戻し免除を考慮すべきかは、肯定説、否定説がありますが、私は否定説です。遺留分というのは、遺言によっても奪えない最低限の生活保障という意味からして、遺留分の計算に特別受益は必ず足されるべきであると考えるからです。この説だと、Yは、Aに持ち戻し免除の意思を表明してもらっても750万円はBXに価格弁償しないといけないことになります。)
〈解決策?〉
YがAへの援助を証拠として残しておくこと。たとえば、Yは学校を出て、就職し高額な賃金を得て、Aと同居してAの自宅の改築に貢献したとき、AもYに老後を自宅で看てもらうことを希望していたときなどには、黙示の持ち戻し免除が認定されることがあります。その際には、YはAへの援助をなるべく証拠として残しておくことが必要になります。
こうすれば、持ち戻し免除の意思が認定されるだけでなく、YのAに対する寄与分も認められるでしょうから、Yは結果として遺産を多く収めることができます。

2010-10-08|タグ:

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