小堀球美子の相続コラム
相続コラム~となりの遺産分割、手続き編「4遺産分割と遺言」
遺言があるときには、遺産分割は必要でなく、そのまま遺言内容を執行(実現)すればいいだけです。
たとえば、遺言にある不動産を相続させると書いてあれば、遺言を法務局にもっていけば、そのとおり登記をしてくれます。これは、自筆証書であると公正証書であるとで変わりません。
ですので、遺言があるときには、家裁に遺産分割調停を起こすことはありません。
ところが、家裁の用意する遺産分割調停申立書には、遺言の有無を書く欄があります。
そもそも遺言があれば、調停は起こさないのではないの???
①遺言があっても、相続人全員が遺言をないものとして、遺産分割したい。
②遺言が遺産の一部しか書いていなくて、遺言に記載のない遺産については遺産分割したい。
③遺言に、「遺産の20%を与える」などという包括的な遺産の承継方法が書いてある。
④遺言が2つあり、第一遺言に「全遺産を長女に相続させる」とあり、第二遺言に「兄弟仲良く助け合って、遺産分割でもめないようにして公平にしてください」とある。
等等の場合には、遺言があっても遺産分割調停を起こす理由があります。
①の場合
遺言があっても、これをないものとして遺産分割をすることは可能です。その場合、法定相続人全員がその意思を持っていることが必要です。
また、「A不動産を弟に遺贈する」となっているときには、A不動産が原野商法などで取得したいわばマイナスの資産である場合など、弟も相続したくはないでしょうから、これを受け取りません、と兄に意思表示すれば、弟はA不動産を取得することを強制されません。
遺言に「A不動産を弟に相続させる」となっている場合には、弟は相続放棄をしないとA不動産を承継することを止められません。弟は他の遺産ももらえなくなるので注意が必要です。弟が相続放棄をしたときには、A不動産を含む全遺産は行方が決まりませんから、他に相続人が居る場合は、やはり、遺産分割が必要です。
②の場合
遺言にはA不動産の行方しか言及がなく、他の遺産については何も書いていないような場合には、他の遺産について遺産分割が必要です。
③の場合
これは、包括遺贈、包括「相続させる」遺言で、このような書き方をされた相続人または受遺者は、他の相続人と遺産分割が必要なのです。たとえば、遺言に、「全ての遺産の20%を長男に相続させ、のこりは、兄弟で平等に分けてください」などと書いてある場合です。
このときには、長男が何を20%相続するか、残りの遺産をどう分けるべきか未定なので、遺産分割が必要なのです。
ちなみに、このような遺言には注意が必要ですね。きょうだいが多いときに、長男によかれと多めにあげようと意図したけれども、遺産分割でもめたのでは元も子もありません。このときには、「全ての遺産を遺言執行者をして換金させ、そのうち20%を長男に与え、残りは、長男を含む兄弟で平等に分けること」としておくとよいです。
④の場合
これは遺言の解釈に争われる要素がある場合です。第一遺言に「全遺産を長女に相続させる」とあり、第二遺言に「兄弟仲良く助け合って、遺産分割でもめないようにして公平にしてください」
遺言は日付の後の方が生きますので、妹としては、第二遺言は第一遺言を取り消し、遺言はないものとして遺産分割をするべしと母は言っていると主張して、遺産分割調停を起こします。
これに対して、姉は、第一遺言と第二遺言は両立し、あくまで、第二遺言は兄弟仲良くという事実上の注意を書いただけで、第一遺言は生きていると主張するでしょう。そして、妹の起こした遺産分割調停では、遺言があるので、遺産分割は不必要と主張します。
このような場合には、姉が譲れば、そのまま遺産分割調停が行われますが、姉が譲らなければ、妹が、第一遺言は第二遺言で取り消されたと主張して、第一遺言無効確認の訴えを地裁に提訴することになります。その場合には、遺産分割調停は取り下げられることになります。
以上のように、事実は小説よりも奇なり、いかにも面妖です。事案に即した対応が求められます。
2020-06-12|タグ: