小堀球美子の相続コラム
相続法改正~恋しさとせつなさと心強さを~4使い込み
【使い込みはこう変わる(せつないね)】
相続開始前後に、法定相続人が遺産である預金を勝手に引き出している、というケースはよくあります。
このとき、相続開始前の引き出しは、法定相続人Bが母の預金を勝手に引き出したことで、母がBに対して返還請求権を持ち、これをほかの法定相続人Kが相続して行使する、相続開始後の引き出しは、BがKの預金に対する権利を侵害して利得したのだから、KがBに返還請求権を持つ、というように整理されます。
改正法は、この相続開始後の引き出しに関し、従前は地裁で不当利得とか損害賠償請求とかで求めていくしかなかったのを、家裁でも審理の対象にすることができるということにしました。
相続開始前の引き出しは依然として地裁で返還請求訴訟を提起する必要がありますが、相続開始後の引き出しは、地裁での返還請求訴訟に加え、メニューが増え、家裁でも解決可能となったわけです。
これは、相続開始後に引き出された金員は「みなし遺産」となるので、協議がまとまらなければ審判でも判断が可能なのでしょう。
しかし、実務の肌感覚では、使い込み事案は当事者の対立も激しく、果たして家裁で審判の対象とするのになじむのかなとも思います。使い込み事案の当事者は解決のプロセスも大事なので、やはり二当事者対立構造の訴訟での解決の方がなじむと思います。
その点、家裁でどこまで運用されるかは不透明で、せつない改正と言えます。
2021-07-01|タグ: