小堀球美子の相続コラム
預金等の利得への返還請求の手法
何度か触れたように、相続人の一人が、遺産である預金を相続開始前後引き出していた、解約していたなどということがままあります。バリエーションとしては、被相続人が取得すべき賃料(被相続人の所有する不動産を第三者へ賃貸していたとき)を相続人の一人が独占していたなど。
法律構成としては、どうでしょう。被相続人P、相続人子ABのケースで考えてみましょう。相続開始前の預金は、Pのものだから、Pに無断でAがこれを着服していたときは、Pの損失でその分Aが利得したということで、PからAに対する不当利得返還請求権が観念でき、相続開始(Pの死亡)により、ほかの相続人Bがこの請求権を1/2の割合で相続して、Aに対して請求できる。AがPの得るべき賃料を得たときも同じです。この場合は、Aの利得は違法でしょうから、不法行為による損害賠償請求権とも構成できます。
相続開始後はどうか。相続開始後の預金は銀行に対する金銭債権なので、可分債権で相続開始により法律上当然に分割され、各共同相続人が相続分に応じて権利を承継するというのが最高裁の判断です。すると、Pの死亡により、預金債権はABに1/2ずつで承継されますから、Aがこの預金を引き出すなどして利得していたら、Bの1/2についてBに対する不当利得返還義務を負うことになります。
相続開始後の賃料債権は、遺産でなく各共同相続人が相続分に応じて取得するというのが最高裁の判断です。すると、Pの死亡により、賃料債権はABに1/2ずつで分割取得されますから、Aが賃料全額を徴収し利得していたら、Bの1/2についてBに対する不当利得返還義務を負うことになります。
通常Aの利得は違法ですから、別途Bは不法行為による損害賠償請求権としても行使できます。
このような主張により、Bが訴え提起したとき、Aとしてはどのように抗弁すべきかは、又の機会に述べることとします。
2010-05-31|タグ: