小堀球美子の相続コラム

相続開始前後の預金の引き出し行為について

相続の問題で、相続開始前後に、故人の預金口座から相続人の一人が、預金を引き出しているという事例がよくあると、以前に書きました。
最近、事件に接していると、よくあるというより、ほとんどあると言ったほうがよいほど顕著な事例です。
預金を引き出されたほかの相続人は、「横領だ!」と怒り心頭です。言い方は、過激ですが、法律的にも、不法行為ないし不当利得の可能性が高いです。
故人の生前の引き出し行為については、その故人が引き出した人に、不法行為だとして損害賠償請求するか、法律上の原因がなく利得したとして返還請求するかの権利を持ちます。そして、故人が亡くなれば、相続人がこの権利自体を法定相続分で相続します。預金を引き出した相続人もこの故人の権利を相続するというへんてこな事態になりますが、これは、権利者と義務者が同一になるので「混同」という概念で消滅します。父の法定相続人が母と3人の子供であるときで、父の預金を子供の1人が引き出していたときには、父が死亡したら、母が1/2、引き出した子供以外の子供2人が1/6の割合で、引き出した子供に損害賠償請求ないし返還請求できるというわけです。
故人の死後の引き出し行為については、預金債権は可分債権なので相続と同時に法定相続分に応じて、各相続人が当然に取得しますので、ほかの相続人への不法行為ないし不当利得ということになります。
以前にも書きましたが、引き出した相続人は、いろいろな理由付けを行いますから、やはり訴訟にしないと解決しない例が多いです。それ以前に、引き出した者が誰かに争いがあると、それこそ泥沼の訴訟になります。
このような事例に直面すると、家族間で争うことがとても悲しく思われます。暖かい部屋で、テーブルを囲んで一家団欒した記憶など、どこかに行ってしまうようです。その争いを代理する弁護士は、ほんの少し、そうした記憶を聞き留めておく必要もあるのではないかと思うのです。

2009-11-20|タグ:

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